B:伝説の巨頭 デイダラ
東方における古い伝承に、「デイダラボッチ」という巨人が登場するんだが……。
この伝説の巨人を創ろうとした男がいてね。彼が、ただの夢見がちな愚か者ならよかったんだが、中途半端に腕のいい陰陽師だったのが、災いした……。土をこね、仮初めの命を吹き込み、式神を創ったんだ。エオルゼア流に言うなら、ゴーレムだね。だが、腕が半端だったせいで、頭部だけがゴロリと落ち、
身体を求めて、徘徊するようになったんだそうな。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
巨大な生首の化け物は全身、いや全頭を使ってあたし達の胸丈くらいまである熊笹の藪の中を不気味な表情を浮かべたままピョコピョコ器用に跳ねまわる。
確かにこんなものが夜な夜な徘徊していては怖くて表を歩けないという住民の気持ちもよくわかる。あたしも仕事でなければ遠慮したい程、実に不気味な光景だ。
「一体何を思ってこんなものを作ったのかしら…」
あたしは思わずつぶやいた。
「どうせならもっとイケメンに作ればいいのに」
あたしがそう言うと相方が呆れた顔で言った。
「それはそれでもっと気持ち悪いやん」
あたしはニヒルな笑みを浮かべ、髪をサラサラなびかせて熊笹の藪をピョコピョコ跳ねる生首を想像して納得した。
「確かに」
オサード小大陸の東方、紅玉海の向こうにあるひんがしの国には陰陽師と呼ばれる者たちがいるらしい。占いや天文学などの知識や技術を基に、暦を作ったり、占いを行ったり、呪術や祈祷を行ったりする役割を担った者ではるか昔には官職としても存在したらしいが、いつしか官職としては扱われなくなり、今は民間の生業として続けている一族が残っているのだそうだ。
その昔、ヤンサにひんがしの国から渡来したという陰陽師が棲み付いた事があったらしいのだが、なんせ集落全員顔見知りというような田舎者ほど余所者に厳しく、排他的なものだ。結局集落に受け入れられなかった陰陽師を名乗る男は山奥に小屋を建て一人寂しく暮らしていたという。その陰陽師とやらがこの化け物の作者だ。
何を思ったのかは知らないが、その陰陽師は自分の故郷の伝承にある巨人「でいだらぼっち」を式神、こちら風に言えば所謂ゴーレムのような物として作ろうとしたらしいのだが、それなりの陰陽師だったという言い伝えだが、いづれにしても力不足でまだまだ未熟だったため、いざ動かしてみたら頭部だけが動き出し本体から転がり落ちたのだという。迷惑なことに陰陽師はその後もサイズを小さくすればやれると思ったのか、何度も挑戦しては失敗を繰り返したらしく、この周辺には同じような生首の化け物のサイズ違いがたんまりと居る。その生首軍団の親分格なのがサイズが大きい最初に作られたコイツだそうだ。
でいたらぼっちの出来損ないはあたし達の存在に気が付くと心なしか嬉しそうな顔をしてピョコピョコ軽やかに跳ねながら近づいて来た。
「うわああああ」
初老のオッサン顔の生首がピョコピョコ跳ねる度にヨダレや鼻水らしきものが飛び散らせ、垂れるほど大きい耳たぶと弛み気味なほっぺたがブルンブルン揺らして近寄ってくる様にゾッとしてあたしは思わず声を漏らした。間合いまで近づくと生首がひときわ高く飛び上がった。
「‼」
あたしと相方は咄嗟に左右に飛びのいた。
大きく開いた生首の口から無数の何かがシュシュシュシュっと風きり音を立てて飛び出し、あたし達が今までいた場所に熊笹を飛び散らせながらトトトトトと音を立てて着弾する。
それは長さで言うと20cmくらいの無数の鋭い針だった。
「やってくれるじゃないのっ」
相方はそう言うと剣を抜き払い、ちょっと楽しそうに生首に向かって駆け出した。